金貨の山

収入が不安定な仕事をしているということは、仕事があれば収入があるが仕事がなければ収入がないということでもあり。



「仕事が忙しい」というのはとてもありがたい状況だ。



ここ最近連日私は「忙しい忙しい」と口走りながら、ばたばたと動き回っていた。



精神的な余裕などないが、どこかうきうきとした雰囲気を漂わせながら。



朝から夜まで働く日々。



そこに充実感を感じないと言えば嘘になる。



それでも自分の余裕のなさには辟易してしまう。



スケジュールが押せば慌てふためき、些細なミスで落ち込む。



「そんなこと気にしなくてもいいのに」



夫は私にそう言った。



この日は仕事の合間に散歩をする余裕があった。



私は近所の河原に散歩に出かけた。



時刻は夕方。



堤防の上を一人で歩く。



日中は暑かったが、この時間になると風は涼しかった。



吹く風が髪を乱していく。



歩きながらも仕事のことを考えた。



まだやらなければならないことが山積している。



今日帰ったらあれをやり、明日の朝はこれをやり。



歩きながらそんなことを延々と考える。



ふと、立ち止まり、近くにあったベンチに腰掛ける。



なんとなくスマホを取り出し、SNSのアプリを開く。



SNSを見れば友人たちの華やかな生活がタイムラインに流れる。



「SNSには悪いことは書かない。私も含めみんな自分の生活の中でもいい部分を切り取って投稿しているだけ」



頭では分かっていながらも、他人の華やかな生活は私の焦りを掻き立てる。



「私はこのまま終わるのだろうか」



そんな漠然とした不安が頭をよぎる。



考えを捨てようと、スマホから目を離す。



朝から雲ひとつない空だったが、それはこの時間まで続いていた。



上空は深い青色で、西の低空には金色に輝く太陽があった。



川の水面は太陽の光を反射し、また金色に輝いていた。



私は手に持っていたスマホでその金色に輝く水面を撮影した。



他のものは一切入らないように、ただ水面だけを写した。



暗い画面の中に、いくらか光が飛んでいるが、金色の粒が散らばっている写真が撮れた。



水面には西に沈む太陽写っているのだから、その写真を自分の立っている一から撮影すると自然、上から下に向かって金色の光は伸びていく。



その点々と散らばる金色の粒が、金貨のようにも見えた。



画像を180度回転させると、それはさながら金貨の山の写真になった。



「こんなの撮ってもSNS映えしない」



撮影した写真を見て私は苦笑した。



それでもその写真の出来栄えを、密かに自画自賛するのだった。










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