今年もよろしく

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「私にできると思う?」



仕事でつまずいた時、SNSで嫌なことを言われた時。



そんな些細な瞬間で一瞬にしてそれまで見えていた夢や希望が見えなくなることがある。



本当にくだらない、些細なことだと、頭では分かっている。



「これで真っ暗だなんて大げさな」



冷静になれば自分でも笑ってしまうようなこと。



それでも些細な嫌なことで私の目の前は暗くなる。



目の前が暗くなった時、私は夫に尋ねるのだ。



「私に目標を達成できるかな?私にできると思う?」



「弱い人間だな」



夢や希望が見えなくなっている私に夫はそう言い放った。



「俺が『できる』と言わなければ、詩織は『できる』と思えないのか」



「そうだよ」



自分の弱さを恥じながらも、認めざるをえないため、私はそう返す。



すると夫は呆れたように笑いながら、



「詩織は弱い人間だな」



と言った。



そうなのだ。



私は決して自信満々な人間ではない。



他人から「できる」と言ってもらえなければ、自分の「できる」を信じられない。



「詩織ならできる」



そして最後に夫は最後にそう締めくくってくれる。



年末年始は夫婦で北海道に旅行に出かけた。



鉄道オタクの夫が北海道の風景の中を走る列車を撮るためだ。



各撮影ポイントをレンタカーで転々とする。



「もし北海道に移住したら……」



道中の話題はもっぱら夫婦の夢について。



この一年、頻繁に夫婦で北海道移住の夢について語り合ってきた。



それをこの旅の最中にもするのだ。



鉄道に関する知識はまるでない私。



夫と一緒に撮影ポイントで待機することもあるが、車の中で待っていることもある。



車の中で夫の撮影を待っている間、私はノートパソコンを広げて原稿をする。



そして滞在する宿でも原稿をする。



夫は旅行中に私が仕事をすることに何も言わない。



「むしろそうするのが当然」



と言わんばかりの顔をしてくれる。



この人がいてくれるから、私は自分の仕事ができる。



旅先で迎える大晦日。



テレビで紅白が流れているのを横目に、夫は撮影に関する情報収拾、私はやはり原稿をする。



原稿の合間に顔をあげたら夫と目が合った。



「ありがとう」



思わず口から言葉が、目から涙があふれた。



「迷惑かけてごめん。でも、ありがとう」



夫はまた、呆れたような笑みを浮かべて私を抱きしめてくれた。



「一人では自信が保てないから」



「詩織は弱いな」



「だから来年もよろしく」



「もちろん」



この人のおかげで、またいい一年を過ごせそうな予感がした。









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