金色の雨

目的地は、地下鉄4番出口を出て10分直進した先にあるカフェ。



今日の午後はこれからそこで一緒に仕事をしている人と会う。



これからどうしていくかの打ち合わせをする会。



地下鉄を下り、4番出口を探す。



午前中雨が降ったからか、地下鉄の駅には湿った空気が充満していた。



雨水があちこちに黒いシミを作っている。



薄暗く、じめじめした空間の中を、足早に4番出口を目指して歩く。



階段も雨で濡れている。



地上の風が、地上と地下を結ぶ階段を滑り降りてくる。



風が私の髪の毛を乱していった。



ところどころに水たまりがある地下鉄の階段。



時間には余裕がある。



転ばないよう、一歩一歩慎重に階段を上っていく。



踊り場で一回左に曲がる。



階段を見上げると、出口から空が見えた。



まだ雨の名残を残した雲が、それでも雨を降らせるほどの力もない雲が、空には広がっている。



正面から雨上がりの風がぶつかってくる。



湿っていて、生暖かい風。



転ばないよう、一歩一歩慎重に階段を上る。



地上に出ると、そこには銀杏並木があった。



太い道路沿いに、銀杏の木が一列に並んでいる。



金色に染まった銀杏は、雨の粒をまとってさらに輝いていた。



足元の歩道には銀杏の葉の絨毯が広がっている。



一迅の風が銀杏の木を揺らす。



雨粒を含んだ銀杏の葉が舞う。



それはさながら金色の雨だった。



地下鉄4番出口から直進徒歩10分。



私はその道を、目的地に向かって歩き始めた。



アスファルトの上にできた金色の絨毯は滑りやすい。



転ばないよう、一歩一歩慎重に歩を進める。



時間にはまだ余裕がある。



足元を見ると銀杏の葉が散らばっている。



手のひらほどの大きな葉ばかりが落ちている箇所もあれば、指先ほどの小さな葉ばかりが落ちている箇所もある。



「同じ銀杏の木でも、木によって葉の大きさが違うのか」



そして時々立ち止まり、銀杏並木を見上げた。



力のない雲が広がる空。



その空を背景に銀杏の葉が舞い散る。



歩いては立ち止まり、立ち止まっては上を眺め、また歩き出し、立ち止まって今度は足元を見る。



地下鉄4番出口から直進徒歩10分。



これから会うのは、一緒に仕事をしている人。



一緒にこれから先のことを考える人。



一緒にこれから先をもっとよくしていく方法を考える人。



転ばないよう、一歩一歩慎重に歩を進めながら、これからのことを思う。









毎週水曜日朝7時ごろ、メールマガジン【夜明け】にて短編小説を配信しています。

「文章が書ける美女」能世雄妃オフィシャルサイト

愛知県で作家・モデル・ライターとして活動している 能世雄妃のオフィシャルサイトにようこそ。 「有意義な暇つぶし」をモットーに日々活動しています。