東京の朝
出張で東京に来ている。
今日の昼からはクライアントと打ち合わせをする予定がある。
しかし午前中は手持ち無沙汰。
パソコンとネット環境があればできる私の仕事。
打ち合わせのために東京に来たとはいえ一人で進められる仕事は一応あるし、それはホテル内やカフェなどでもできる。
私はクライアントに会うまでは、ホテルで自分の仕事をすることにした。
それでも朝はホテルのベッドでのんびりする。
目覚ましが鳴ってから15分後、とりあえず着替えて顔を洗う。
「近くのコンビニで朝食を買ってホテルで食べよう」
やらなければならない仕事はあるのだ。
時間の節約のためにも、朝食は手軽に済ませたい。
だからそう決めて、ホテルを出ることにした。
一歩足を踏み出して外の空気に触れると、ひんやりとした秋の風が頬をなでた。
その風がいよいよ私の目を覚まさせる。
自然背筋がまっすぐになる。
街路樹を見ると、ほんのりと黄色に染まっている。
空はすっきりと澄み渡っていた。
観光や遊びで、というよりも、仕事で来ることが多い東京。
どこに行っても人混みで、どこに行ってもビルが立ち並んでいるイメージが強い。
そんな環境に慣れる自信がなくて、「東京に住むことは自分には無理だ」とさえ思う。
今朝も通りを見れば通勤客が行き来しているし、高いビルがそそり立っている。
それでも今朝は、どこかすっきりとした清々しさがあった。
いつもの東京のイメージとは違う東京だった。
私は深く息を吸い込んだ。
そして少し予定を変更して、この清々しい東京の朝を散歩してみようと思った。
オフィス街の中を、スーツ姿の男女とすれ違いながら歩く。
角を曲がり、大通りに出る。
空が開けて、朝の光が一層強く降り注ぐ。
私は東方向に足を向けた。
人の流れは途絶えない。
車も大通りをひっきりなしに走っている。
そんな中に佇む神社を見つけた。
「ひとつここは神様にお参りでもしていくか」
私は神社に入り、お参りをする。
仕事がうまくいきますように、家族が健康でありますように云々。
ふと神社で腕時計を見て驚く。
思いの外時間が経っていた。
午後のクライアントとの打ち合わせまでは、自分の仕事をしなければならない。
私はあわててホテルに戻り、明日の朝配信する予定のこのメールマガジンの執筆にとりかかった。
毎週水曜日朝7時ごろにメールマガジン【夜明け】にて短編小説を配信しています。
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