薄明

朝4時。


枕元のアラームがけたたましく鳴る。


「寝坊はできない」という緊張と相まって、私は激しい動悸とともに目を覚ました。


そして正確な時間に起きられたことに安堵する。


今日はこれから仕事だ。


始発電車に乗らなければならない。


毎日ではないものの、仕事内容によっては始発に乗ることも珍しくない私の仕事。


ありがたいことに10月はこうした仕事がたくさんある。


好きな仕事であるため引き受けたが、それでも始発に乗らなければならないというのはそれ

なりのプレッシャーだった。


私は呼吸を整えるためゆっくりと体を起こし、ベッドから下りた。


隣で寝ている夫を起こさないように、そっと足音を忍ばせながら寝室を出る。


台所に行き、朝食を準備する。


昨日の夕飯の残りのご飯と味噌汁、そして納豆。


「いただきます」


テーブルにつき、一人で食事をする。


薄暗いリビングの中。


夫はまだ眠っている。


黙々とご飯と納豆を噛み締め、味噌汁の温かさが胃袋に染み渡るのをじっくりと感じる。


食べる量が少ないからか、それとも一人で黙々と食べているからなのか、朝食は10分程度で終わった。


食器を片付け、身支度をする。


前日に用意しておいた服を着、歯を磨き、顔を洗い、メイクをする。


身支度をしている間、何度もあくびが出る。


まだ眠気が取れないのだ。


時計を見て、少しでも時間がありそうなら横になりたいと思っている自分がいる。


それでも出発までの時間は刻一刻と短くなっていく。


眠い目をこすりながらも、仕事に向かう準備をする。


朝5時過ぎ。


家を出る時間が来た。


戸締りを確認し、バッグを持って私は玄関を出る。


まだ外は暗かった。


涼しく湿った風が私の脇をすり抜けていった。


そういえば昨日は激しい雨が降っていたのを思い出す。


雨はしきりに窓を叩き、一晩中ばちばちと音を立てていた。


夜の間に雨は上がったようだが、空気中には雨の余韻が残っている。


上空を眺めると、墨をこぼしたような雲が覆っていた。


一晩中雨を降らせたために疲れているようにも見える雲だった。


力なく、空に張り付いているかのような黒い雲。


しかし、北西の低空には雲の切れ目から空が見えた。


群青色の空が。


これから日が昇る予感を孕んだ空が。


水蒸気を多く含んだ風が吹く。


今日はこれから仕事だ。


ありがたいことに10月は仕事で忙しい。


私は駅に向かって歩き出した。









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